僕と彼女と彼女の彼

両足首に見つけた不可解な虫刺されに悩まされている。もう何年もの間、蚊に刺されても痒いと感じなかったのに、である。原因は定かではないが、とにかくこれまでは鷹揚な政策を打ち出せるほど文字通り痛くも痒くもなかった対虫関係が、突如として掻きむしらずにおれぬようになるとは虫の知らせによると一大事なのであって、目に見えぬ仮想敵に対して虫酸が走るような思いでもある。

原因に全く心当たりがないという訳でもない。すっかり肌寒くなったこの季節、僕は冬用の掛け布団にくるまって就寝しているのだが、どうやらヒントはこの布団を押し入れから引っぱり出した時期に隠されていそうだ。秋らしい気候に変わったのはここ最近のことであるが、僕の記憶に留められている最後の押し入れ開閉の季節は確かに同じ秋でありながらそれは昨秋。2004年。直すのが面倒だ、という自らをニートたらしめる脱力の一貫性によって、掛け布団を脇に押しやる形で遂にひと夏を乗り切ったという訳である。
ジメジメと汗滲む熱帯夜にも隣には絶えず寄り添うようにして掛け布団であるところの彼女(通称掛布)がいた。だとすれば今僕は掛布がその内に囲ったたくさんの情夫Daniel(通称Danny)達から手痛いしっぺ返しを食らっているのに違いない。夥しい情痕は間男Dannyが甘噛みして残したキスマーク。

奔放過ぎる夜を営む僕が失墜した社会的信用の回復を望むのであれば、差し当たって迫られるのは晴れた午後に加える掛布とDannyへのスパンキングと考えて異論はなさそうだ。