別れてなかった

7/4の日記でさよならを告げたはずの穴空きジーンズだが、思いのほか多くの方々から頂いた「大丈夫、私達も破れている」コメントを「辞めないで」コールと受け止めて実は密かに現役続行に踏み切っていた。さすがに頻度こそ落ちはしたが、確かに近所への用事くらいならこれで十分事足りる、というのが履き慣れるにつれての感想だった。
そうやって次第に気を大きくしていった僕は、ある日この出立ちで都市部へと繰り出してみることにした。
そこにある種の刺激と興奮を求めていたことも否定はしない。
いざ街へ出て、ショーウィンドウに映る全身像を見てはっきりしたことは、これが思う以上に過激ファッションだったということだ。裂け目から生じた紐状の生地がいたずらに長さを増して揺らめく様は、そっと忍ばせた回虫が行きつ戻りつしているかのように儚くて、一度ほつれた糸が元通りにはならないことを如実に顕わしている。
強過ぎる刺激を前に一気に疲労した僕は、ガラガラの電車に乗り込むと二人掛けの座席にどっと腰を下ろした。この穴はどれほどまでに広がっているのだろう。遅過ぎる疑問に突き動かされるようにして、周囲に誰もいない事を確かめると開脚して穴を覗き込んだ。切れ間からパンツがのぞいているかもしれない、そのくらいの考えでいた僕は我が目を疑った。そこで目にしたもの、それは種が種なら白子として珍味扱いされる器官・玉山鉄二そのものであり、その丸みを帯びたシルエットが本来あってはならない公的空間でチラリチラリとハローグッバイの体である。
僕はそっと股を閉じると、今度こそ、と固くお蔵入りを誓った。
暦はもう十月で金冷法が身に堪える秋なのだ。