木曜日 ミーが歯医者に行くので付き合う
口腔外科に行った。
前々日は寝坊、前日は行き先違いのバスに乗ってしまったために受付時間に間に合わず、未来永劫辿り着けないのではないかと自らの度を越したうっかりに涙したものだが、この日は何事もなく到着してしまいなぜだかソワソワした。
ドジづいた人間に似つかわしくないことをしてしまったせいだろう。
2時間の待ち時間の後にレントゲン撮影が不鮮明だったとのことでCTを撮ることになった。
年輩の女性CT技師に促されドアを開ける。
「眼鏡は外して下さいね」
はい。
「頭にピンとかついてないですか?」
い、いえ。付いてません。
「で、その髪の毛は本物?」
ああああたりまえです!
確かに薄毛に悩んではおりますが辛うじて。
痛いところを突かれてすっかり動揺してしまったが、必須の質問事項に違いないと思い直しベッドに横たわった。
するとその技師は僕の髪を確かめるように触りながら、
「あら、くせ毛だったの」
エエエエエエッ!
本当に間違えられていたというのですか!
プロが、プロの目がそう言っているのですか!
人様の毛髪に対し投げかけるクエスチョン。
職務上致し方なかったこととは言えこれはよほどの事である。
確かに世間を見渡せば、薄毛のカヴァーリングに全神経を費やしたために頭部だけが浮き世離れしたオリジナルティを主張、単独行動してしまった不幸な例を見る事は少なくない。
そしてその違和感に忠実に従って凝視してみたらば、その上下仲間割れの原因が人毛状ヘルメットに認められることだってままある。
しかしまさか自分にその嫌疑がかけられているとは一秒たりとも考えてはいなかった。
確かにここ数年、毛髪に対する僕の注意がボリューム一辺に払われていた点は否定しない。
ヘルメットみたいな髪型だねと指摘されたことも一度や二度ではない。
しかしそこまでお見苦しい不協和音を生み出していたことには思い至らなかった。
自らに猛省を促した。