高橋は高橋

poqrot2005-12-27

年の瀬に乗じて書店員が仕掛けた高橋を貶める罠。それも奥歯に物の挟まったようなニュアンスで誹謗中傷にあたらない程度にやんわりとくさしてくるあたり実に巧妙である。一体何がそうまでして売り子を高橋バッシングに駆り立てるのか、いぶかりたくもなるところだが、実は心当たりが全くない訳でもない。

先日、見知らぬ人物からのメールが舞い込んだ。本当であればこのメールは開封することなく削除されるべきものだった。なぜならば発信者名が浅岡美麗だからである。
僕の知る限り浅岡美麗類名義で接触を試みる人物の目的は一つしかない。しかし『貴方ですか?』という件名に覚えた胸騒ぎに似た感情、および貴乃花親方に似た感じに僕は抗うことが出来なかった。

「もう貴方しかいないと思いメールさせて頂きました、
 高橋といえばわかりますか?」

高橋。そう聞いて僕の頭に浮かんだのは以前バイト先にいた60代男性・高橋だけなのだが、よしんば彼が浅岡美麗を名乗って事後報告的に特殊な性的嗜好のカミングアウトに精を出しているのだとすれば、ここは保身のためにも無言を貫かねばならないところだ。しかし携帯電話との離別理由の約半分を置き忘れによる生き別れとするうっかり過多な人生経験から「もしかして覚えていない誰かかもしれない」という疑念を払拭することができなかった。

「突然のメールで戸惑っております。
 どちらの高橋様でどちらをご覧になってメールくださったのでしょうか?」

迷いながらも恐る恐る返信したメールはおかしなことに「failure delivery」として舞い戻って来た。
不審に思いながらもそのままにしていると翌日、再び浅岡美麗から新着メールが届いた。

「私のメール、調子が良くないようです。
 もしかして返信してくださっていたらごめんなさい。
 こちらの掲示板に書き込んでくれますか?
 お金はかからないので安心して下さい」


それからも美麗からの便りは絶えることはなく届けられている。

「どうして??どうして返事貰えないんですか?全部しってるのに。
 今から貴方の情報全部、、掲示板に乗せちゃいますから。
 <中略>抱いて下さい」

「先ほどは言い過ぎました。後悔しています
 <中略>抱いて下さい」

時には脅迫と欲情。時には落胆と欲情。相反する複雑な心境がまみえるメールに僕は毎日目を通し続けている。これは浅岡美麗に返信した者が背負わなければならない十字架なのだ、という諦念の下で。

人はとかく高橋に心惑わされやすい生き物である。言い方を変えれば、僕達は良くも悪くも高橋という生き物に踊らされて生きているということかもしれない。