ポクロ、北海道へ行く(下)

poqrot2005-08-28

退去時間ギリギリまで睡眠を摂ってテントを出ると、会場はすっかり撤去が進んでいた。
「終わったんだなあ…」祭りの痕に一抹の淋しさと想い出を残して、僕らは雨中のドライブへと繰り出す。

大渋滞に巻き込まれて疲労の色が隠せないニゴさんに「疲れてませんか?運転代わりますよ?」と気遣うそぶりを見せながら、その実、助手席に初めて女子を乗せる下心に憑かれてアピールを繰り返していると、彼女の正気がじわじわと蝕まれていったのか、一本道になったところでとうとう運転交代の同意を取りつけることに成功した。28才で免許取得後ペイパードライバーとして息を潜めて来た僕に降って湧いたような晴れ舞台。
交代後、最初の赤信号でニゴさんはこのドライブが悪夢であることを思い知ったはずだ。
「信じられない!今ブレーキとアクセル間違えた!」
座席位置が詰まり過ぎていたために足元の距離感を失い踏み損なった、というのが当時試みた言い訳だった。しかし今だからこそ告白すれば、あの時の僕はアクセルとブレーキ、そしてオートマにはあるはずのない存在、クラッチがこんがらがって正気ではなかった。いろんな意味で地に足がついていなかった。
完全に度を失いつつも、始まったばかりのランデブーを早々に打ち切られたくない一心で、僕は鷹揚に笑ってみせるなどしてこの失敗がハプニングであることを印象づけようと躍起だったが、ニゴさんの固く強ばった表情を見れば僕がたった今僅かばかりの信頼さえも失ったことは明らかだ。

「右に寄り過ぎです寄り過ぎです! 右 に よ り 過 ぎ で す!」
「信じられない!今、ぼーっとしてた!」
「車線変更の時に減速しないでください!」

今まで耳にした事のない声色で発せられる厳しいお叱りの言葉の連続に、僕は次第に口数を少なくしていったが、なんとか五体満足で洞爺湖に到着。いや、駐車場でもまた悲鳴をあげさせる事件があったのだが、これ以上は思い出したくない。

大急ぎで、昭和新山の火祭りを見に走る。あまり大きな花火大会ではないと聞いていたが、これが想像以上の大迫力。目と鼻の先から打ち上げられる3Dのごとく飛び出す花火にのけぞりながら、悪天候も忘れて嬌声を上げて楽しんだ。


有珠山からモクモクと立つ煙を見て、食べたとうもろこし。
洞爺湖の畔で見つけた「ちゃいはな」という古民家カフェ。
硫黄臭に満ちた登別温泉
初めて食べた生ラムジンギスカン
廃虚と化した銀行を改装した「OLD-e#」というカフェ。


最終日、札幌駅周辺で格安航空券ショップを探してキョロキョロしていると、背後から「ポクロさん!」と声がした。 見ず知らずの土地でポクロ呼ばわりだなんて、と想像を絶する自らのネットアイドルぶりに驚いて振り返るとのりんこさん母娘の姿があった。出会いに満ちたこの旅を締めくくるにふさわしい偶然。

空港ではチケットを無くしたと大騒ぎ。時間リミットとなり一旦キャンセル手続きをするも、その直後に発見。無線で機内と連絡を取る係員の方に誘導してもらう仰々しさでようやく機上の人となった。