ポクロ、北海道へ行く(中)

19日
開門後、首脳陣の綿密な計画通りにまずサンステージ前の好位置を確保し、その後フォレストサイトでテントを建てる。確かに女子3人と床を共にする下準備ではあるが、もちろん立てたのは隠語が意味するところではないテントである。

一段落ついたところで、I'm FishTシャツを求める列に並んでいると、隣の列に見覚えのある顔。ニゴさんに「あの人達知っている人かも…」と話し掛けたところで、あちらも僕を見留めたらしい。
「あの、もしかして…」声をかけてみると、このところCD売却に足繁く通っているレコード店の方だった。
無収入となってなお僕に遠出を可能たらしめたのは、ひとえにこのコレクション切り売りの力によるところが大きい。この方がお店にいらっしゃる時にはやたらとキリンジが、それも「3」以前がかかっていたりして、かねがね好みが似てそうだとは思っていたが、話してみると趣向は似ているようだった。
帰阪後にこの店員さんこと、たなこさんとマイミクになるのだから出会いは思いがけないところに転がっている。

初めてのRSRはサンステージでの東京スカパラダイスオーケストラで幕を開けた。そしてそのままRIP SLYME。僕でも知っている曲をやってくれて楽しめたのだが降り出した雨でびしょ濡れに。ドライブ中に被り続けた雨風に楳図かずおが降臨し頭のモアモアが耳目を集め始めた折とあって、とうとう嫌気が差した僕は一人早々にテントに引き返すことにした。もうこのまま寝てしまっても構わない、とやや自暴自棄な思いで突っ伏した夕暮れ時。と、どこからともなく「おーんタイム」と聴こえてくる。
テントから飛び出し、鍵もかけずに音のする方向に走り続けると、会場最果ての地、ボヘミアンガーデンでハナレグミのシークレットライブが始まっていた。 いい感じに酔っぱらった永積タカシは途中でトイレに駆け込んだりしてなんだか可愛い人だと思った。サプライズ効果も相まってのことだろうが、私的にはこのライブが二日間のベストアクトだったかもしれない。これで息を吹き返し、アーステントで電気グルーヴ×スチャダラパーを観て僕の一日目は終了。

20日
まとわりついた砂埃と湿気がいよいよ不快さの極地に達したため、午前中にAnnikaさんの車に同乗させてもらってお風呂に向うことにする。駐車場へ向う途中、サンステージ前で日本全国行脚中のキカンボくんと5月のシングルズ以来の再会。このエゾでは先述のたなこさんを始め、さまんささん、タカイくんとひょっこりお目にかかれた方々のなんと多かったことか。
こういう出会いも実に楽しい。
汗を落し、時間的にも余裕を残して帰還したはずだったが、駐車場で前輪が排水溝にはまるハプニング。警備員の方にジャッキであげてもらって事なきを得たが、フジファブリックの1曲目には間に合わず、冷や汗と小走りの影響で不快指数もモアモアも元通りになってしまった。そんな複雑な心境で観たフジファブリックだが、ワンマンを見なくてはいけない、との思いを強くした。

フィッシュマンズはやはりトリビュートという印象であったけれど、欣ちゃんがとても楽しそうだったのが印象的だった。ちょうどこの時、空の雲間から覗く夕焼けがとても綺麗でしばし放心。
そのままTHE HIGH-LOWSを観た後テントに引き返す。
エゴラッピンカヒミを観るつもりでいたのだが、起こされるまで深い眠りに落ちてしまっていた。
そしてまたもやボヘミアンハナレグミ。「今日は寝させるよ」の宣言通り、カバー中心のまったりとした選曲。それをみんな三角座りで聴いていた。原田郁子BIKKEが退けたあたりからは本当にうとうとしてしまったが、それほど気持ち良かったということだろう。0時に始まり2時半に幕を閉じるというワンマン以上の長丁場のあおろで、こんな時でもなければ見ることないかもと思っていたアジカンCKBは、こんな時でも見れなかったが致し方あるまい。

シートに寝そべりながら、くるりを聴いていると、次第に空がうっすらと明けて行った。曇天で朝日こそ見られなかったが、フェスの大団円の訪れを知らせる荘厳な感じだ。ほぼ眠りながらトリの斉藤和義を聴いていると「彼女は言った」を歌い出したのでむずがゆい思いになって目が覚めた。彼のライブは2度しか観ていないがが毎度この曲でいたたまれない思いにさせられる。なるべくなら直接語は控えたい。だからと言って松茸を推奨するつもりでも決してない。
フェスを締めくくるにふさわしい「歩いて帰ろう」で爽やかに幕切れ。

さあ終わりだ、と思っていると、なにやら昂った感のあるプロデューサーが挨拶を始めた。
「おはようございまーす、今日、初めて僕と一緒に朝を迎える人もいると思います」
彼と朝を迎えている感覚は皆無だっただけにこの言葉に軽い衝撃。 エゾの想い出を見知らぬ男性との一夜へとすり替えられそうになったことで、憤りとまではいかない小さなわだかまりを抱え、僕の初エゾロックは幕を閉じることになった。