マーちゃん

poqrot2005-07-17

自らに組み込まれた体内時計の精度ときたら実にたいしたものだ。眠りに就く時間の如何によらず翌朝5時台きっかりに目が覚める。しかしその主因が自力によるものではないこともまた明らかだ。
愛犬の遠吠えによって叩き起こされる習慣が数年も続けば、否が応でも覚えさせられようものだからである。
マシューはオスのミニチュアダックスフントである。母が偏読する「赤毛のアン」からその名を拝借したのは4年前の秋のこと。以来、ミニチュアとは名ばかりで右肩上がりに上昇し続ける体重は7・3kgと今や標準サイズの2倍近くになんなんとする。僕らはこの小さな目とピンクの鼻の生き物を、愛情を込めて外国人名に似つかわしくないマーちゃんと呼んでいる。
そのマーちゃんを一体何がそれほどまでに雌鳥めいた行動に駆り立てているのかは判然としないが、彼は毎朝決まって同じ時間にWOW WOW WOW WOW…と切ない思いを込めてバラードを歌い上げるのである。大好きな散歩の夢の途中で目を覚まして、起き抜けに行きたい行きたいとせがんでいるのかもしれない。

幼少のみぎりよりマーちゃんの中で最上位に位置付けられる関心事はいつだって散歩だ。子供の頃は食が細く「おやつ」にはさほど関心を示さなかったのに、「散歩」だけは耳をそばだてているような散歩一辺倒な犬だった。そのため会話に出てくる「田んぼ」など空耳フレーズに大騒ぎすることもしばしば。そこで当時、他の言葉の覚えが芳しくないマーちゃんに、嬉しいこと、大好きなものの語尾に「んぽ」をつける、という遊びをやっていた。
主に散歩に連れ立つ父と散歩が直結した「おとうさんぽ」の相乗効果たるや顕著で、父不在時にこのキーワードを発しようものなら、その切ないバラードはカーテンコールの間も止む事はない。
そして体重の急増に比例するようにして「おやつんぽ」も今では本家たる散歩と双璧をなす高みに位置するようになった。
決して賢いとは言えぬマーちゃんだが、どの犬よりもNPO(非特定営利おやつ、おとうさん)の音に耳聡い犬であることだけは間違いない。