届かなかったメッセージ

メッセンジャー元年だった今年、それはまだ春の丑三つ時。ひょんなことからさるネット友達とメッセンジャーすることになった。 うら若き女子を相手にテランテランに脂ぎった三十路男が熱心に語ることと言えば勿論艶っぽい話題と相場は決まっている。
そう、うんこについてだ。

どのようないきさつだったかまでを具さに記憶している訳ではないが、僕は過去に生み出した大物について、自らの肛門へのいくばくかの自嘲を込めて(いやそれは自慢だったのかもしれない)、それは熱心に語ってみせたのだった。
夜の静寂がちょっとだけ僕を大胆にさせたのだと思う。
「どうだい、見てみないか?」
コレクターがその価値をわかりあえるベストフレンドを見つけでもしたかのように僕はおずおずと切り出した。自慢の大物中の大物画像を携帯のライブラリーに収めてあったのだ。

多少、押し問答じみたやりとりがあったかもしれない。 驚かせたい。凄いですねと褒めそやされたい。
僕の熱意にほだされた友達は渋々ながらも見ることを承諾した。
昂っていた僕は「どうだ」の一文を添えて送信した。
「届きませんが」
おかしい。もう一回。
「届きませんって」

そんなやりとりを4、5回繰り返した頃だろうか。
「送り先を間違えてませんか?」
そんなバカなことはない、ちゃんと今登録したアドレスに送って、、、
いなかった。
一字違いだったのか。

その方もまたネット上の知己だったが、それはいつぞやの集まりで集合場所の確認のために頂いて以来それっきりのメールアドレスだった。
深夜3時、メールの着信音に眠りを妨げられた彼女が携帯画面の中に見い出したもの、それは。
「どうだ」「どうだ」と全く交流の無い男から数分間隔で次から次に送られてくるもの、それは。
人違いでした、詫びる手立ても考えられたが、人が違えば排泄物画像を送ってしまう男の謝罪をそもそも受け入れられるものだろうか、との思いもあってそれは未だに果たされていない。
それから先、彼女との接触はついぞ訪れることはなかった。
誰か彼女に聞いてくれないか。あれ凄くなかったですか、と。