涙もろくなった?

終電を逃したミナミホイール最終日明けの朝。
最寄り駅から家まで続く坂道を上っていた時のことです。
始発の普通電車で難波からのんびり帰って来たその時間はちょうど世間的には早めの出勤時間帯でした。
駅へと向かうまばらな会社員と逆行しながら朝帰り。
ちょっとだけアウトローだなあ、と楽しかった前夜の余韻に浸っていると坂の上からバタバタと激しい足音が聞こえてきました。
顔をあげると若い女性が凄い勢いで坂道を走り降りてきます。
坂のかなり上から飛ばしてきたのでしょうか。
女性としては限界の域にまで達したその加速に、足の回転がついていかないようでフォームがバラバラに崩れきっているように見えました。

その姿を目にした瞬間です。
あろうことかボクの目にうっすら涙が浮かんできたのです。
なんの脈絡もないのに一体全体どうしたことだろうか?
三十路を越えて涙もろくなったと解釈するには、シチュエーションがストレンジだし、タイミングはトリッキー過ぎる、そんなことを考えていたら、その数週間前の記憶がふと甦ってきました。

これまた通勤電車で最寄り駅に到着、上りのエスカレーターに乗った時のことです。
階段を下りてくる女性に目をやった瞬間、同じく涙が急に溢れそうになってしまいました。
30歳台半ばと思しきその女性は、足下の階段をどんぐりまなこで用心深く直視しながら下りてきます。
その姿は落ちまい、落ちまい、と祈っているようにさえ見えました。
頭に刺した金色の大きな髪止めがなんとなく横綱チックな人でした。

なぜに涙が溢れそうになったのだろうと考えてみると、共通条件はどちらも通勤中の見も知らぬ通りすがりの方々で、何かに一生懸命であったということ。
それがボクの中の何かをくすぐったのだと思いますが、それが何なのかは自分でもわかりません。

さてはボクの中で人間として大切な何かが音を立てて崩れ落ちてしまっているのでしょうか。

なんとなく人体の不思議展に展示されてもいいような気がしました。