クンパルシータ

poqrot2004-08-23

遂に行ってきました。噂のスポット。
「築地」、「ソワレ」、「ミューズ」等、レトロな珈琲屋には事欠かない木屋町界隈でも一際異彩を放つタンゴ喫茶「クンパルシータ」。
風俗店の立ち並ぶカオス立ちこめた路地に、弱々しくも個性たっぷりに歴史を感じさせるその店構え。
それよりもなによりもヨボヨボの老婆が一人で切り盛りする様があんまり過ぎて胸を打つのだという。
過去にも足を運んだことはあったのですが、1度目はドアの前にドンと立ち塞がる鉢植えに立ち往生。風俗の呼び込みのおっちゃんに「まだ。5時からやで」と教わって「こ、こここれが準備中の合図なのか!」と強い衝撃を受けたそんな出会いだったのでした。
その後は京都を歩き疲れた後にディープな空気に呑み込まれるだけの気持ちの余裕はなく、先延ばしという形で機会をうかがい続けていたわけですが、いよいよ昨日クンパルシータのためだけに京都までいざ出陣です。


19:17 入店。
ドアを開けるとハッとしたように「いらっしゃいませ」の声。店主とおぼしきおばあさんは腰が直角に曲がっていらっしゃる。タンゴ喫茶なのに店内は完全なる静寂。無音の世界。どうやら客が来てから流すシステムのようです。
とりあえずメニューを持ってきてもらうことにしたのですが、普段は常連さんばかり相手にされてるせいなのか、ラックのあたりをしきりと探しておられますがメニューがなかなか見つからないご様子。そんなこんなで苦労を強いてメニューを持ってきてもらったのにブレンドだけ注文するのも、とジャムバタトーストも頼むことにしました。
しかし結果的にはこの事がこの日の運命を大きく左右ことになろうとはこの時に知る由もありません。


19:50
入店後しばらくして再生されていたカセットテープが停止。これよりしばし無音の世界に戻ることになります。この時点で入店より35分経過。高齢によりスローモーであられることを差し引いたとしてもマンツーマンにしては遅過ぎる、とこのあたりから記録を意識し始めた僕。


20:08 
厨房?より「チン」と音が鳴る。 トーストが焼けたのでしょうか?


20:12  
おばあさんが腰を直角に折って下を見たままお盆を運んでらっしゃった。入店ほぼ1時間を経てようやく運ばれてきた珈琲。
一口すすって大ショック。まままままずい!
一言で申せば石ころのような味わい。
もっと言えば泥水のような。


20:14 
再び「チン」。もう何の音だかわかりません。


20:28
ジャムバタトースト到着。



やりました!偉業達成です。入店より1時間10分!
トーストは冷えっ冷えで、塗られたバターもまるで溶けた様子がありませんでした。
しかし「遅くなってすみません。間が悪くてねえ。」
と本当に申し訳なさそうに詫びるおばあさん。「申し訳ない」とブルボンのエリーゼをおまけしてくれました。
いい人です。ひょっとしたら珈琲にしても悪徳な出入り業者に騙されて泥の袋をつかまされているのかもしれない、そんな考えさえ頭をよぎるような好老婆。ナイス老婆。

さんざん面白がったような書きっぷりが随分な気もしますが、それは決して僕の真意ではございません。このおばあさんの怪しくも憎めない人柄にはなにかしら胸を突き動かされるようなものがあり、心底感動に打ちのめされてしまいました。

いやいや、これは生き急ぐ現代人へのアンチテーゼなんてものではありません。まさしく理想郷。
対価だとかを求めてはいけないひたすら緩やかに流れる時間の特区。